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水戸地方裁判所 昭和52年(ワ)259号 判決

異議事件原告兼手形事件被告 株式会社笠間家庭電化センター

右代表者代表取締役 塙弘

右訴訟代理人弁護士 古川清

異議事件被告兼手形事件原告 ストルトニールセン・シッピング・エイ・エス

右日本における代表者 イエルテ・ケー・カーステン

右訴訟代理人弁護士 平林良章

主文

異議事件につき

一、原告の請求を棄却する。

手形事件につき

二、被告は、原告に対し金四〇〇万円及びこれに対する昭和五二年一二月一三日から右完済にいたるまで年六分の割合による金員を支払え。

三、訴訟費用は、異議事件原告兼手形事件被告の負担とする。

事実

第一、異議事件関係

原告は、「被告が訴外有限会社笠間電化センターに対する当庁昭和五二年(ヨ)第一四三号仮差押決定に基づき昭和五二年六月一六日別紙目録記載の有体動産に対してなした仮差押の執行はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決、並に、仮執行の宣言を求め、請求の原因としてつぎのように述べた。

一、被告は、訴外有限会社笠間電化センター(以下訴外会社という)に対する当庁昭和五二年(ヨ)第一四三号仮差押決定正本によって同庁執行官中川照男に申請し、昭和五二年六月一六日茨城県笠間市笠間一三一六番地において、別紙目録記載の有体動産に対して仮差押執行(同執行官事件番号昭和五二年(執ハ)第四一号)をなした。

二、然しながら右有体動産は何れも原告が買受けたもので、原告の所有する物件であるから右仮差押決定によって執行することは許されないものである。

三、右物件の所在場所は、現在原告会社の支店店舗内であるが、偶々ここが以前に右訴外会社の旧店舗であったことから執行官は当時原告店舗の表示があったに拘らず、且つ、原告の申立をも斥けた上執行を強行してしまったのである。

右訴外会社は、当時から閉鎖状態にあって商品類は存しない。

四、本件物件は、原告が所有し販売すべき商品或はその備品であるところ、仮差押執行によって販売ないし使用できないこととなり原告の営業上の損失は計り知れないものがある。

よって、速やかに執行の取消を得たく本訴に及ぶ。

被告は、主文第一項及び第三項同旨の判決を求め、答弁として「一、請求の原因第一項の事実は認める。同第二項の事実は争う。同第三項の事実中、原告会社の支店と訴外会社の本店とが同一所在地にあったとの事実は認めるが、その余の事実は争う。原告主張の店舗の看板には有限会社笠間電化センターのネオン看板の表示があり、店舗内においては右訴外会社が東芝商事株式会社より電気製品の販売に好成績をあげたことを表彰する額が四枚飾っており、むしろ原告会社が営業していることを示すものは店舗内には何もなかったものであり、外観上は右訴外会社が営業しているものとみられる状態であった。同第四項の事実は争う。」と述べ、抗弁としてつぎのように述べた。

一、訴外会社は、本店を原告の笠間支店所在地とし、原告の本店所在地を石岡支店として、原告代表取締役塙弘の父である塙松雄を代表取締役とし、三村里美を取締役とし、右塙弘を監査役として電気製品の販売を主たる営業目的として営業してきたが、昭和五〇年七月一八日会社の種類は異にするが(有限会社より株式会社に)「笠間電化センター」の商号を使用して訴外会社の石岡支店を本店所在地とし、訴外会社の本店を笠間支店とし、代表取締役に塙弘(松雄の長男)、取締役に塙孝子(弘の妻)、塙登(松雄の次男)、塙とし子(松雄の次女)がそれぞれ就任し、電気製品の販売を主たる営業目的として原告会社が設立登記され、同日原告は訴外会社より一切の営業設備並びに取引先、従業員などの営業活動組織、資産、負債一切を含めた営業の譲渡を受け、かつ訴外会社の看板をそのまま使用して営業を継続した。

このように、原告会社は訴外会社の会社の種類は異るものの商号の主体部分である「笠間電化センター」は同一であり、その経営の実体もいわば塙ファミリーであることに変更がなく、訴外会社の資産、負債の全部、営業の人的、物的設備を引き継いでいるものであって、原告は訴外会社と実質において同一でその継続であるとみられるから、原告は、商法二六条により商号続用による営業譲受人として訴外会社の本件債務名義の原因債務についても支払責任があるものである。

二、仮りに然らずとするも、原告は、いわゆる法人格否認の法理により、被告に対する関係では訴外会社と別箇独立した法人格を主張できず、訴外会社に対する本件債務名義はその実体において原告に対するものともいえるのであるから、原告は被告の訴外会社に対する債務名義に基づき本件物件に対してなす強制執行につき、第三者として右強制執行を妨げる権利を主張することは許されない。これを詳述すればつぎのとおりである。

(一)  訴外会社の出資者のうち塙松雄を除くその余の出資者はすべて塙松雄が名義を借りたものであり、原告会社も株式の九六%は塙一族が所有しており、その出資金は塙松雄が株主の一人である本間雄三より借入れたものであり、実質上の出資者は塙松雄にすぎないといえる。

(二)  訴外会社と原告会社との間には前示営業の譲渡に際し、債権債務の売買契約書が作成されているが、金銭の授受はなく、原告が引受けた債務についても金融機関との間に債務の肩代りをしていず、原告会社が右契約により所有権を取得している筈の原告会社の本店の土地建物についてもいまだ所有権移転登記もせず、右土地建物の担保権者である株式会社茨城相互銀行に対する債務については原告は債務を引受けていないため同行より右土地建物について競売の申立をうけている。しかも、右契約により原告に所有権移転される筈の笠間市笠間字地蔵前一一八番一、一一九番一の各土地は前記契約前の昭和五〇年六月三〇日本間武男に売買により所有権移転登記されており、原告に所有権移転されることはない。

前記契約後も、原告は、訴外会社に対して当座預金の立替払をしたり、貸付をしている。

このように、前記売買契約書は税務署に言訳するために作成されたものにすぎず、要するに原告は、訴外会社が多額の負債を抱え、営業用の商品、什器、備品及び売掛金などについて債権者より仮差押を受けたりすることを回避するために原告会社に恣意的に営業用資産を移転していることを仮装したにすぎない。

(三)  訴外会社には約六億円の負債があるが、このうち原告は約二億円の負債を引継いだと主張しているが、金融機関に対しては債務の肩代りの措置をとっていないのであるから、実質は支払手形、買掛金、未払金と個人に対する借入金の約四〇〇〇万円程度にすぎず、訴外会社所有の土地は原告会社の引受債務のために依然として担保に入ったままでいる。従って訴外会社は結局約五億四〇〇〇万円の負債を返済せざるを得ず、しかも返済手段は何重もの担保権が設定されているその所有の土地以外になく、清算事務も進行せず、金融機関より競売の申立をうけ、所有土地全部を失う寸前にある。

(四)  訴外会社代表取締役塙松雄は、昭和五〇年七月一八日原告との間に営業譲渡契約をした直後の昭和五〇年九月二日同人所有の不動産を妻の塙ヨシ子に譲渡し、同月五日所有権移転をしている。これにより塙松雄は計画的に債務を免脱するために右営業譲渡契約をなしたり、所有不動産の名義変更をしていることは明らかである。

(五)  訴外会社は、同社取締役三村里美の夫三村育美よりその所有不動産を、又右塙松雄よりその個人所有不動産をそれぞれ同社の結城信用金庫に対する債務のために担保提供を受けているのであって、同社所有の不動産だけでは金融機関に対する債務にすら担保価値がないことを如実に示している。

(六)  以上で明らかなように、原告会社の設立は法人格を濫用して訴外会社の債務の支払を回避する目的が含まれているものであって、会社制度を濫用したものであり、信義則上原告会社は訴外会社と別人格であることを主張できず、又訴外会社と同一の責任を負担しなければならない。

原告は、被告の右抗弁に対し、つぎのように答弁した。

一、抗弁一、は否認する。訴外会社は、その代表取締役塙松雄が殆んど一人で経営していたが、不動産売買を手広く手掛けたため多額の負債を抱えて行詰ってしまったので、かねてその経営方針に反対する右松雄の長男である塙弘が不動産売買を営業目的から除外して家庭電化製品の販売設備と電気工事一本にしぼり、資本も別に本間雄三からの資金援助を受け、営業目的並に役員を一新して訴外会社とは全く別に昭和五〇年七月一八日に設立したのが原告会社である。

訴外会社は、同日電化製品販売、電気工事関係の営業を廃止し、原告は同日訴外会社の右範囲の営業用財産(土地建物並に商品備品を含む)を買取った上営業を開始したもので、全部の営業譲渡ではないから、商法二六条の適用はない。

二、抗弁二、は否認する。

(一)  原告の引受債務について金融機関との間に債務の肩代りが出来ていないとの点。

債務者を訴外会社から原告会社に変更するかしないかは窮極的に金融機関が決定することであるから、原告がそれを申出ても右機関が元のままとするということであればやむを得ない。金融機関とすれば、十分の担保があることであるから、原告が爾後債務を弁済して行くということであればわざわざ変更登記するまでもないと考えたのであろう。

(二)  原告会社の土地建物について所有権移転登記がないとの点。

原告としては、仮登記はあることだから、その本登記は資金の余裕さえつけば何時でもできると考えたのも無理からぬところである。

(三)  本間武男に所有権移転登記された土地について。

同人は原告会社の発起人である本間雄三の兄で原告会社の発足については少なからぬ援助をしている者であるから一応名義は変更されても原告の将来に不安はない。

(四)  訴外会社の金融機関に対する債務は総額三億六七五〇万円にのぼるけれども、訴外会社所有の不動産は、山林二〇町歩、宅地六〇〇坪、建物一一五坪に及ぶとのことであるから、家電部分を切離しても相当の価額で処分して行けば、完済とまでは行けないにしても何とか整理し得る見通しである。

(五)  訴外会社代表者塙松雄がその所有不動産を妻ヨシ子に所有権移転した事実はあるが、右は銀行の要求によって塙ヨシ子に譲渡したものである。

又訴外会社取締役三村里美の夫三村育美よりその所有不動産を、前記塙松雄よりその所有不動産を担保に提供している事実は認めるが、右は結城信用金庫の要求によってなしたものである。

三、原告会社代表者塙弘は、早くから訴外会社の不動産部門だけ切離し、家電部門のみを以て新会社を設立すべく計画し、本間武男、同雄三兄弟の援助を得た上ようやくその発足を見た所であって、両会社は組織、役員構成、資本関係、並に営業目的、商号等を異にする全く別箇の法人であって同一性はないから、新会社設立後にしかも会社経営に全く関係ない訴外会社振出の手形責任を負わされては切角の会社設立も水泡に帰してしまう。又差押執行を受けた商品はすべて原告会社発足後原告が買入れたものであるから本来差押執行を受ける理由のないものである。

第二、手形事件関係

原告は、主文第二、三項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、請求の原因としてつぎのように述べた。

一、訴外会社は、訴外株式会社サンタロサインターナショナル(以下訴外会社サンタロサという)に対して左記の手形要件の記載を同じくする約束手形二通を振出した。

額面 金二〇〇万円

支払期日 昭和五一年六月二〇日

支払場所 結城信用金庫笠間支店

支払地、振出地とも 笠間市

振出日 昭和五一年三月一三日

二、訴外会社サンタロサは、前記約束手形二通を拒絶証書作成義務を免除した上原告に対し裏書譲渡し、原告は現に右手形二通を所持している。

三、ところで、被告は、原告が前記第一異議事件関係における被告の抗弁一、として主張したような事実関係のもとに、商法二六条にいう営業譲渡人である訴外会社の商号を続用した営業譲受人にあたるから、訴外会社の債務である本件約束手形金債務について支払の責任がある。

四、仮りに然らずとするも、原告が右異議事件関係における被告の抗弁二、として主張したような事実関係のもとに、被告会社の設立は法人格を濫用して訴外会社の債務の支払を回避する目的が含まれているものであって、会社制度を濫用したものであり、信義則上被告会社は訴外会社と別人格であることを主張できず、本件約束手形金債務について訴外会社と同一の責任がある。

五、よって、原告は、被告に対して本件約束手形金四〇〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五二年一二月一三日から右完済まで商事法定利率たる年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として「請求の原因第一、二項の事実は不知。同第三、四項は否認する。」と述べ、前記異議事件関係における被告の抗弁に対する答弁と同様に付陳したほか、抗弁としてつぎのように述べた。

一、訴外会社が右約束手形を振出すにいたったのは、訴外会社サンタロサがセブ島開発のためにその会員券を予め募集するということで、訴外会社に対して強っての勧誘があったので訴外会社はやむを得ず承諾したが、その支払は現金によらず本件約束手形の振出によってなした。

然しながら、右募集は詐欺行為で計画も実施もされないまま終ってしまったから訴外会社は本件手形の返還を右訴外会社サンタロサに強く求めたが履行されないままとなってしまったものである。従って本来無効の手形である。

二、本件手形の原告への裏書譲渡は拒絶証書作成期日経過後のものであり、振出人に対する債権譲渡の対抗手段をとらないままなされたものであるから、仮りに有効としても振出人に対抗し得ない。

原告から手形呈示の前日に振出人会社に電話照会があったときも訴外会社は右手形の無効なことを告げた程であるから、原告は右の事情を十分に承知の筈であり、更に手形譲受の時においても既にこれを承知の上受取った筈のものであるから振出人は原告に対して人的抗弁をもっても対抗し得るものである。

第三、証拠関係《省略》

理由

第一、異議事件関係

一、請求の原因第一項の事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》を総合すると、別紙目録記載の有体動産のうち番号一及び三ないし一一の什器備品類は原告が訴外会社から昭和五〇年七月一八日に譲渡を受けたものであり、番号二及び一二ないし三〇の商品類は原告が昭和五〇年一二月一七日以降前記仮差押執行を受けるまでの間に訴外茨城東芝商品販売株式会社他二社から買受けたものであることが認められるから、他に特段の事情のない限り原告の所有に属するものといわなければならない。

二、そこで被告の抗弁一、について判断する。

当事者間に争いない事実に《証拠省略》を総合すると、つぎのような事実が認められる。

1、訴外会社は、原告会社代表者塙弘の父塙松雄が昭和三九年三月二四日三村すいのらと共に資本金三〇万円をもって、(一)ラジオ及び部品の販売並びに修理、(二)電機器具の販売及び修理、(三)前各項に附帯する一切の業務を営むことを目的として設立され、本店を笠間市笠間一三一六番地に置き、さらに石岡市大字石岡五七七番地の一に石岡店を設けて右営業を営み、昭和四七年一〇月七日には前記営業目的に加えて不動産の売買及び斡旋業をも併せ行うにいたったが、共同出資者三村すいのらは名義のみであったから、その経営の実体は右塙松雄の個人企業と同然であったところ、昭和四九年頃から経営不振となり、昭和五〇年四月三〇日現在で五億九六〇〇万円の負債を計上し、債務超過額は九三〇〇万円余に及ぶ状態に立ちいたった。当時訴外会社の代表取締役は塙松雄であり、取締役に三村すいのの子三村里美、監査役に塙弘が就任していたが、ラジオを含む電器製品販売、修理部門は右塙弘、三村里美、塙とし子(右松雄の二女)、塙登(右松雄の二男)らが当っていたところから、右松雄は、右弘と相談の上、右電器関係部門の営業を、右弘らに原告会社を設立させてこれに移して営業を続けさせることとした。

2、かくして、原告会社は、昭和五〇年七月一八日に訴外会社の商号の主要部分である「笠間電化センター」を使用してその商号を「株式会社笠間家庭電化センター」となし、営業目的を(一)家庭電化製品の販売、(二)冷暖房設備、空調設備、防音設備等の工事、設計施工、(三)電気工事、管工事、給排水、衛生設備の設計施工、(四)その他前各号に附帯関連する一切の業務とし、訴外会社の前記石岡店所在地に本店を置き、資本金五〇〇万円をもって設立され、訴外会社の前記本店所在地には笠間支店を設置し、代表取締役には右塙弘、取締役に塙孝子(右弘の妻)、前記塙登、前記塙とし子が選任され、いわゆる同族会社として発足し、同日付で訴外会社と原告会社間に債権、債務の売買契約書が作成され、訴外会社の前記電器関係営業財産は、現金、預金はもとより、土地建物、店舗設備、車輛、什器備品、商品の一切にいたるまで原告会社に譲渡され、その取引先も全部原告会社に引継がれ、従業員一〇名もそっくり原告会社に移籍し(従って、この時点で訴外会社の電器関係の営業は休止状態となった)、一方訴外会社の負債は一部を除き原告会社において債務支払の責に任ずることとし、ここに訴外会社の電器関係の営業はそのまま原告会社において継続することとなった。但し、訴外会社の商号、営業目的、本店所在地、役員構成等は登記簿上は何らの変更もなく、その代表者塙松雄は単独で主として不動産の処分その他の残務整理的な仕事をしていた。

3、そして、被告が訴外会社に対する仮差押決定に基づいて本件仮差押執行に及んだ昭和五二年六月一六日の時点においても、右笠間店の店頭には「(有)笠間電化」「笠間電化センター」「(株)株笠間電化センター」「笠間家庭電化」等と訴外会社と原告会社を分別せざる各看板をもって商号表示がなされており、訴外会社の各金融機関に対する相当多額にのぼる負債も、特に債務者名義の変更手続をなさずに原告会社がその営業によって得た利益から事実上弁済しており、前記売買契約書上原告会社が買受けたとされる不動産もその一部につき原告会社名義の所有権移転請求権仮登記がなされているだけで、他は依然として訴外会社所有名義のままとなっていたり、あるいは前記塙松雄の妻塙ヨシ子に贈与名義で所有権移転登記がなされている。

以上の事実を認めることができ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで、商法二六条一項の立法趣旨とするところは、営業譲渡により当事者間において債務の承継が約されても債権者と譲受人との間に債務引受の契約がなされない以上、債権者は債務者に対し直接の請求権を取得しない理であるが、営業譲受人が譲渡人の商号をそのまま続用する場合は、譲渡人の営業上の一般債権者は、営業主の更替を知らず、又はこれを知っても譲渡人の債務が譲受人によって引受けられたものと考え、譲受人に対し何時でも権利行使ができるものと信ずることが常態であるとし、この第三者を保護するため設けられたものと解せられる(譲受人がこの結果を避けるためには同法条二項所定の措置に出ずれば足りる)。

これを本件についてみると、右認定の事実によれば、原告会社は訴外会社の電器製品販売、修理の営業一切を譲受けてその営業を継続しているもので、その役員構成も塙松雄の一族であることに変りなく、店舗設備や従業員も全く同一で、訴外会社の商号の主要部分である「笠間電化センター」を使用して自己の商号の主要部分としているのであるから、前記立法趣旨に鑑み、かような場合も商法二六条一項にいう「営業の譲受人が譲渡人の商号を続用する場合」に該るものと認めるのが相当である。

三、してみると、原告会社は訴外会社の営業上の債務(本件債務名義の被保全権利は訴外会社振出の約束手形金債権であるから一応訴外会社の営業上の債務と推定される)につき訴外会社と同一の弁済の責任があるから、信義則上本件仮差押の執行を免れることは許されないものといわなければならない。

第二、手形事件関係

一、《証拠省略》によれば、請求の原因第一、二項の事実を肯認することができる。

二、つぎに、被告が商法二六条一項にいう営業譲渡人である訴外会社の商号を続用した営業譲受人に該ることは、前記第一、異議事件関係の第二項において説示したとおりであるから、被告は、訴外会社の営業上の債務である本件約束手形金債務について支払の責任があるものといわねばならない。

三、そこで被告の手形抗弁について判断する。

《証拠省略》及び前記一、に認定した事実によれば、訴外会社は、昭和五一年三月一三日訴外会社サンタロサとの間においてセブ島内に造成するゴルフ場の会員券二人分を代金四〇〇万円で買受ける契約を結び、同日右サンタロサに宛ててその代金の支払のために本件約束手形二通を振出交付したが、同年四月中頃右サンタロサとの間で右契約を合意解除したので、右サンタロサは訴外会社に対し本件約束手形を返還する義務があり、訴外会社は右サンタロサに対しては右手形金を支払う義務がないことが認められるけれども、かような事情は何ら本件約束手形の振出行為自体を無効ならしめるものではなく、《証拠省略》を総合すると、原告は昭和五〇年七月頃訴外会社サンタロサに対して貸室を賃料一ヶ月金九〇万円としこれを前月二〇日限り支払う約で賃貸したが、昭和五一年一月頃から右賃料の支払を延滞するようになったため、同年四月二〇日頃右サンタロサより同年一月から五月分までの未払賃料合計四五〇万円の担保として本件約束手形の裏書譲渡を受けたことが認められ、他にこの認定を妨げる証拠はない。しかして、原告が訴外会社サンタロサより右裏書譲渡を受けた際、前記のとおり訴外会社が右サンタロサに対し右手形金の支払義務がないことについて悪意であったことの立証はないから、訴外会社は原告に対し本件約束手形金の支払を拒むことはできない。被告の抗弁は理由がない。

四、前記一、二に認定した事実によると、被告は原告に対し本件手形金合計四〇〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和五二年一二月一三日以降右完済まで商事法定利率たる年六分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

第三、結論

よって、異議事件における原告の本訴請求は失当として棄却すべく、手形事件における原告の本訴請求は正当としてこれを認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。なお、仮執行の宣言は相当でないからこれを付さない。

(裁判官 高橋久雄)

〈以下省略〉

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